國分功一郎「哲学の先生と人生の話をしよう」を読んでみた

日本経済新聞を読んでいます。その中に、「ストーリー」というのがあり、結構興味深く読んでいます。

 入院中に、

哲学者が考えていること: 日本経済新聞

というストーリーが連載されました。なかなか興味深い連載で、私のような理系人間があまり考えない視点で哲学者が考えていることが簡潔に示されていたのです。
 その第1回目が、國分功一郎先生の話です。

「昼食のソバ」から解き明かす現代 國分功一郎の世界  :日本経済新聞

 というわけで、そこに載っていた本を少し読んでみようと思い、まずはここにあるように「哲学の先生と人生の話をしよう」を読んでみました。
 大体において、今まで哲学と接していない自分にとっては、面白い相談内容でありますが、以下に特にひっかかった部分を記してみたいと思います。
 1.相談19。「運がいい人」について。

人間はものを考えたくありませんので基本的に情報を選択的に吸収しています。 

と続いて、

そういう自分に与えられている情報を他の人よりも多く受け取り、且つ無意識のうちにそれを処理できている人というのがいるのです。 

すなわち、

運がいい人というのは、したがって、大量の情報を無意識のうちに処理・計算しており、日常生活のうちに無数に存在する選択の場面でそれが役立っている。つまり後に「ラッキーである」と思われるような帰結をもたらす無数の選択を無意識のうちに、そして不断に行っているというわけです。

 これは、読んだ瞬間に、「なるほど!」と腑に落ちた論理です。
 所謂、「認知限界」を超えたところにこういった「無数の選択を無意識のうちに、そして不断に行っている」ことがあるなら、それはどうやって身につくのか探求してみるのも面白いかなと思うわけです。
 2.誰かと話をする。
 相談26の最後に、

いいですね。誰かと話をするのです。人間は一人でものを考えていると、大抵、碌でもないことになります。

とあります。また「解説」で千葉雅也先生も、

本書はしばしば、相談者に、信頼できる人とよく話し合うように助言している。 

と書いています。人間は、一人では生きていけないという根幹に基づく話ではあるが、これが一番重要なのかもしれない。
 
 3.相談29。プラス思考について。
 相談29に、以下のようにあります。

プラス志向のの人は、そもそもたくさんの事柄を考えないで済ましており、また、たくさんの事柄を考えないで済ますために多大なエネルギーを必要としているから、考えられる事柄が限定されている。ということは、プラス志向の人はあまりものを考えていないということになります。

私は、世の中から、「プラス志向」でなければいけない的な雰囲気を感じるのですが、こういった分析から思うのは、自分のエネルギーをどこにどう配分するかをよく考えて、むやみに「プラス志向」である必要はないということでしょうか。
 4.あとがき。

 「解説」でも千葉先生がお書きになっていますが、國分先生も「あとがき」に書いています。

書かれていることだけを読んでいてはダメである。途中で気がついたのだが、人生相談においてはとりわけ、言われていないことこそが重要である。人は本当に大切なことを言わないのであり、それを探り当てなければならない。

今回は、人生相談ですが、私たちが行うシステム開発のヒアリングでも同様だと思いました。「本当に大切なことを言わない」のは、もしかするとそれをわかっているのは当たり前だと思っているのかも知れません。しかし、そこまできちんと深掘りできて、全体像を明らかにしないと、間違った全体像をつくりあげてしまうことになります。
 まとめ
 結果して、「哲学って意外と役に立ちそう」というのが今回のまとめです。人生相談に対する回答の仕方が絶妙ってのもありますが、その対応も参考になりました。
 一読をお勧めします。
(あ、そこの文系人間のあなた、「理系人間ってなんて馬鹿なんだろう。今頃かよ」って思ったでしょ。そのとおり。)
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